とっても楽しくて斬新な絵本を紹介します。
エルヴェ・トュレの『まるまるまるのほん』です。
内容や絵は至ってシンプルですが、あまりの楽しさにどうやったらこんな絵本がつくれるのかについて深く考えてしまいました。
絵本をつくってみたいけど、絵が描けない。物語が思いつかない……。
いざつくるとなったら何からどうしていいかわからない……。
そんな人はいませんか?
今から『まるまるまるのほん』を紹介するとともに、この絵本に出会ったことで改めて考えさせられた、絵本づくりにおいて大切なことについてお伝えします。
はじめに書かれているのが「これはよむほんではありません」という文章。
どういうことかとページをめくると、真っ白なページの中に、黄色いまるが一つ。
そして、「きいろいまるをおして つぎへいこう」とだけ書かれています。
黄色いまるを押してページをめくると……
……なんとまるが二つに増えた!
……ように感じます。
それからも「クリックして」「本をゆすって」「傾けて」など、読者に様々なミッションが課せられ、それに応じて変化を繰り広げる「まる」。
常に読み手に語り掛けてくるので、自分と絵本がコミュニケーションを取っているかのようです。
ストーリーを客観的に楽しむというものとは違い、触れたり動かしたりするので、じっと話を聞いておくのが苦手な子供でも、ゲーム感覚で楽しめるようです。
この本のすごいところは、タッチパネルさながらの楽しさが見事に紙の上で体験できるようになっているところです。
育児にも携帯やタブレットなどが取り入れられるのが当たり前になってきたこのごろ。
幼稚園児などの小さな子どもでも、電子ゲームに夢中になっているという光景をよく見かけますが、その面白さは、目の前の世界に自分の行動がすぐに反映されるというところではないでしょうか。
自分に対してリアクションが返ってくるというのは、誰にとっても嬉しいものです。
それをうまく取り入れたのが『まるまるまるほのん』というわけです。
紙媒体ゆえにもともと次のページには決まった展開が描かれているものの、セリフによってあたかも読者の行動に絵本が反応したように感じさせることができています。
電子媒体がはびこる世の中、それを逆手に取ったような『まるまるまるのほん』。
飛び出す絵本のような仕掛け絵本や、動きや音がある電子書籍にしなくても、平面の紙の絵本でまだまだ面白いものができる可能性があることがわかります。
絵本をつくりたいけど、絵や物語にとらわれて自分にはできないと思っている人は、発想を転換して『まるまるまるのほん』のような方向性の絵本を考えてみるのもいいのではないでしょうか。
ちなみに、『まるまるまるのほん』で描かれているのは三色の「まる」だけです。
作者のエルヴェ・テュレはフランスのイラストレーターですが、仮にイラストレーターのような画力がなかったとしても、発想次第で自分の今ある力を十分に生かした作品がつくれるかもしれません。
ではそんな絵本のアイディアは、どうすれば生まれるのでしょうか。
この絵本に出会ったのは学校に通う前でしたが、授業で学んだ内容からひも解くことができました。
それは「誰に何を伝えるか(どうなってほしいか)」ということ。
絵本をつくりたい人にはそれぞれ違うきっかけがあると思いますが、どれだけつくりたい気持ちや知識や技術があっても、誰に何を伝えるのかを自分の中で明確にしていなければ、目的がないのと同じで手段が出てきませんし、途中で行き詰まったときに何を頼りにしていいのかわからなくなってしまいます。
『まるまるまるのほん』にあてはめてみると、「子ども」が「楽しく遊べる」絵本だといえます。
ここをはっきりさせておき、子どもが喜ぶもの、日常で夢中なものは何かについて考える。
それが『まるまるまるのほん』のような絵本を生み出すことにつながるのではないでしょうか。
『まるまるまるのほん』を見て、私も読む人が驚くような絵本をつくってみたいと思いました。
そのためには読む相手のことをイメージし、どうすれば楽しんでもらえるか、これからも考え続けていこうと思います。
みなさまも、読んでほしい相手、伝えたい内容を胸に刻んで、形にとらわれず、いろんな絵本のアイディアを考えてみてください。
むらたらむ(ライター・絵本作家)