【警鐘・重要】絵本作家になりたいあなたが絵本のコンクールやコンテストで悲しい想いをしないために。
《 熊本地震で被災された方々に心よりお見舞いし、亡くなられた方にはご冥福を申し上げます。被災地の方々への救援が一刻も早く行われ、一日も早い被災地の復興を、一同、心よりお祈り申しあげます。》
※ 当コラムはWCC創設者による寄稿となります。
※ いつもより長い記事になります。お急ぎの場合は2つめの小見出し「応募する前によく確認して! 〜」からだけでもぜひお読みください。
みなさんは、「あなたの原稿を募集します」「絵本の原稿募集」「あなたの原稿を本にします」などの広告を見たことがありますか?
あるいは、「ポストカード一枚で応募! ◯◯イラスト大募集!」「◯◯コンクール 大賞は絵本の出版!」など。
絵本を描きたい、本を出したい、イラストレーターになりたい・・・・・などの夢を持っている場合、そういった広告文をキャッチするアンテナが研ぎ澄まされていると思いますので、一度はあるのではないかなと思います。
最近でも、絵本コンクールや絵本コンテストなどの文言が掲げられた広告はよく見かけます。
また、それらの広告に興味を示し、作品を応募しようと考えていたり、さらには、実際に応募する段階までいっている方の声も、想像以上に多く耳にします。
今回のテーマは、いてもたってもいられなくなり、筆をとりました。
記事の一部を、学校の授業で生徒へ実際にお伝えしている内容より、抜粋・引用・編集しています。
長めの記事となりますが、心当たりのある人はどうか最後までお読みください。
なお、この文章は特定の団体・組織を攻撃することを目的として書かれたものではありません。
あくまで「絵本作家になりたい人が、正しい知識をつけることによって悲しい想いをしないようにするため」に書きました。
しかしながら組織として誤解をされるなどのリスクも孕んでいますので、掲載期間は未定とさせていただきますことをご了承ください。
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■ 基本の知識を身につけよう! 本の企画が生まれて、読者さんの手元に届くまで
みなさんは、本の企画が生まれて、読者さんの手元に届くまで、どこで誰によって、どんなことが行われているか、イメージできますか?
できる人も、できない人もいると思いますので、確認の意味を兼ねて、まず、図解しますね(黒板参照)。
ちなみに、出版とは、「本を複製して、不特定多数に頒布する」こと。
goo国語辞書の出版の定義には、以下のように書かれています。
> [名](スル)印刷その他の方法により、書籍・雑誌、並びにそのデジタルデータなどを製作して販売または頒布すること。「児童書を―する」「自費―」「―社」「電子―」
現在、世の中の出版にはいくつかの種類があります。
◉ 代表的な出版の種類
商業出版(※あくまで商品):利益を出すことを主たる目的として、不特定多数の人に向けて販売。原則全国流通。企画出版とも呼ばれる。
自費出版(※自主出版):制作費は著者が負担する。利益を出すことを前提としていないので、好きなように作れる。流通方法は様々。
共同出版(共同出版・協力出版):商業出版と自費出版のあいのこ。
上記の中で、今回は、「商業出版」についてのお話をします。
商業出版の場合、通常、編集者と呼ばれる人が企画を立てます。
編集者は、出版社に在籍しているケースがほとんどです(少ないですがフリーランスの編集者も存在しています)。
編集者の人は、多くの場合、「売れる企画」を企画会議に通して、出版社や自分の実績にしたいと思っていたりするものですが、常々、出版企画を考えていますし、企画会議も定期的にあるので、ネタを欲しがっています(あくまで「多くの場合」です)。
そんな編集者が、「本にしたい!」と思ったネタに出会ったとき、そのネタの持ち主である著者(文章の書き手・絵の書き手・写真家など)にコンタクトを取り、オファーするところから企画は始まります。
もちろん、そうでない場合もあります。
「自分の本を出したい!」と思う人が、企画を「持ち込む」という方法です。編集者が、持ち込まれた企画から出版企画を考えるケースですね。
これは、割合でいうと、とても「稀」です(絵本の学校の授業では、このあたりの背景を詳しく話します)が、確かに存在するケースとなります。
それらのケースがスタートとなり、企画が企画会議を通ると、次に制作が始まります。
ひとつの出版企画だけでも、制作に関わる人は、たくさんいます。
・著者
・編集者
・装丁デザイナー
・DTPオペレーター
(・出版プロデューサー)
(・ゴーストライター)
・営業担当者
・販促担当者
・印刷会社の担当者
などなど。
営業担当者が制作に関わるというのは意外かもしれませんが、
ちゃんと売ろう! と思っている出版社の場合、営業担当の方も制作にアドバイスしてくるケースがあります。
さらに、それぞれの担当者の上に「上司」だったり「長」がつく偉い人がいる場合は、関わってくる人数はもっと増えますね。
詳細は割愛しますが、上記の人々が関わって本ができたあと、その本はどこへ行くでしょうか?
初版発行後は、それらは通常、「取次」を通して、全国の「書店」に配本されます。
出版の場合、その他の商品流通と同じような流れを辿って消費者のもとに届けるのです。
ただ、呼び名が違ったり、細かいルールが違ったりしますので、以下をまずは覚えておきましょう。
わかりやすいように、野菜の場合も書き添えておきます。
出版社 = メーカー = 農家
取 次 = 卸 し = 市場
書 店 = 小 売 = 八百屋・スーパー
書店に並ぶと、お客さんの目に見える、手に取れる場所に本が存在することになり、そこで定価と引き換えに、本が受け渡されます。
※ Amazonなどのインターネット上の本屋さんも、上記の中の「書店」にあたります。区別したいときには、実際に館を構えている書店を「リアル書店」と呼んだりします。
さて、本が読者さんの手元に届くまでの流れがざっくりとわかったところで、問題です。
わたしたちが本屋さんで1000円をお支払いしたら、その1000円は、どんな割合で、書店や取次や出版社や著者のところに還元されていくのでしょうか。
※ 算数が苦手なのはわたしだけかもしれませんが、わかりやすいように定価を1000円に設定し、消費税のことをさて置きます。笑
まずは、読者から書店に払われるのは、1000円。
書店と取次さんがそれぞれ指定のパーセント分を受け取ります。
この時点で、1000円は600円程度になっています(10の位以下はややこしくなるので切り捨てています)。
※ ちなみに、アマゾンさんに出版社から直で本を卸すときの考え方も上記と同じに考えて問題ありません。
読者さんが書店にお支払いしたのは1000円だったと思いますが、出版社に戻ってくるのはざっくり考えて600円。
全体の60%ですね。計算しやすいように1000円にしておいてよかった(笑)。
出版社とひとことで言っても、発行の機能と発売の機能がありますので、発売の機能を、取次口座を持つ他社に委託している場合は、発行元がその委託先にさらに100円くらいお支払いしたりします(契約によってさまざま)。
そうすると600円じゃなくて500円になるということですね。
また、出版社は本を発行・発売するためにあらかじめ費用をかけています。
印刷費、編集者や営業担当や総務などの人件費、出版社の事務所の賃料、編集や営業にかかる諸経費、本を売るための販促費・広告費……などなど。
それらの元となるのは、本の売り上げであることが多いので、戻ってきたお金の中から充当していきます。
さて、そうすると、著者にはどれくらいお支払いされるのでしょうか?
ここでお支払いされるのが、いわゆる印税というものです(場合によっては買い取りの「ギャラ制」だったりもしますが、この場合は印税で考えましょう)。
印税のパーセンテージは、出版社によってもさまざまですし、企画によって、あるいは、著者の実績や何作目なのかによっても異なります。
とはいえ、常識の範囲内で、どのくらいが相場なんでしょうね?
いちばん多く聞かれるのは「印税は10%だよね?」という答えです。
出版全盛期だった時代では、それが当たり前でしたよね? ただ、いまはなかなか10%というわけにはいかないケースが多いです。
出版社サイドの事情を加味すると、なんとなくそうなるのもわかりますね。
少なくとも、「10%を大幅に超えるケースは、通常ではあり得ない」と考えて問題ないです。
ところで、「印税」というのは、具体的にはどのように算出されるのでしょうか。
印税の種類のうち、主なものを見てみましょう。
◉ 印税の種類
刷部数印税・・・もっとも一般的な印税。「本体価格 × 刷部数 × パーセンテージ」で計算される。
実売印税 ・・・刷部数印税が「本体価格 × 刷部数 × パーセンテージ」で計算される(刷部数印税)のに対して、実売印税は「本体価格 × 実売数 × パーセンテージ」で計算される。
段階印税 ・・・重版になると印税のパーセントが上がる。印税のオプション的な制度。
印税の種類は、「いつかくるそのとき」まで、よく覚えておいてくださいね。
ここまでの話で「印税」とだけ書いていたものが意味していたのは「刷部数印税」です。
それ以外の印税方式の場合、ただ「印税」と呼ばず、フルネームで呼ぶのが通例です。
いずれも定価を基準にして算出されますが、今回のお話で本の定価を1000円に設定していたので、著者印税が10%だったら、それはつまり100円ということになりますね。
刷部数印税だと、それはあくまで「1冊の刷部数あたり」の金額です。
先ほど出版社が諸経費を500円の中から充当すると書きましたが、印税も同じくそこから充当するわけです。
500円から著者印税を引いたら、印税率が10%の場合は、残りは400円ですね。
さて、ここまでで出版物が読者の手元に渡るまでのフローと、読者がお支払いした1000円がどうなっていくかを見ていきました。
ここまでの知識はひじょうに大切ですので、繰り返し読んでおいてください。
なぜなら、それは「騙されない」ようにするためです。
■ 応募する前によく確認して! コンクールやコンテストが悪質な経営手法の「入り口」の場合もある
そんでもって、じつはさらに重要なのはここからだったりします。
繰り返しになりますが、冒頭の呼びかけに戻ります。
みなさんは、「あなたの原稿を募集します」「絵本の原稿募集」「あなたの原稿を本にします」などの広告を見たことがありますか?
あるいは、「ポストカード一枚で応募! ◯◯イラスト大募集!」「◯◯コンクール 大賞は絵本の出版!」など。
絵本を描きたい、本を出したい、イラストレーターになりたい・・・・・などの夢を持っている場合、そういった広告文をキャッチするアンテナが研ぎ澄まされていると思いますので、一度はあるのではないかなと思います。
しかし、いくつかの出版社をやっていたり、編集者をやっていたり、著者であったりするわたしから、自信を持って警鐘を鳴らさせていただきます。
それらの何割かは、「良書を商業出版する」「新人作家を発掘する」というものとは“別の目的”のために出された広告なのです(もちろん全部が全部ではありません。一部です)。
“別の目的”・・・それが、どんな目的なのかというと、「営利」。
10年前でも「今」でも、実際に少し見えづらい場所で実際に行われている、「悪質とも言える経営手法のひとつ」です。
過去に、生徒さんや、説明会にだけいらした人の中で、何名もの女性が、まさにそのような経営方法の被害を受けていました。
そのうちのひとりは、出版社との間で締結した契約書や、そこに至るまでの各種書類を見せてくれました。
また、知り合いの会社経営者の男性は、定価3800円の本を数万部発行するという規模で被害にあっていました。
よくある手口は以下のようなものです。
※ この先、仮に「悪質とも言える経営方法のひとつ」を行っている会社を「A社」、A社の社員を「A氏」、被害に遭う人を「B子さん」として記述します。
A社は、まず、「絵本を出したい!」「作品を広めたい!」などと思っている人たちを世の中から見つけるために、広告を活用して原稿を募集したり、魅力的なコンテストを開催したりします。
そこに応募してくる人は少なからずA社がターゲットとしている人のいちばん大事な条件を満たしています。
そう、まさに、「絵本を出したい!」「作品を広めたい!」などと思っている人たちである、という条件です。
募集の〆切後、応募してきた人の中から、さらに目をつけた人のところにA社の担当者が電話をします。
応募書類に電話番号を書くことになっていますし、結果は該当者にお電話にてお知らせしますとなっていれば、まったく疑いはかけられませんね。
A氏「もしもし、B子さんですか? わたくし、◯◯コンテスト本部の実行委員のAと申します」
B子「はい、B子です……」
A氏「このたびはA社のコンテストにご応募くださってありがとうございます」
B子「……」
A氏「選考結果のご連絡をさせていただいております」
B子「……!!φ(:゚;Д;゚:;)ノ」
A氏「厳正なる審査の結果、B子さんの作品が優秀賞に選ばれました。おめでとうございます!!!!!」
B子「はっ……!!!!!ლ(◉◞౪◟◉ )ლ」
A氏「つきましては、来週の◯月 ◯日◯曜日に、審査員の審査コメントと今後の出版までの流れを説明したいのですが、B子さんのご都合はいかがでしょうか?」
B子「ぶわっ……!!!!!!!!ლ(இ e இ`。ლ)」
もともとB子さんは長年、自分の本を出版したくて、たくさん努力してきました。
「今まさに、長年の努力が実を結ぼうとしている!!」
B子さんは涙を流して喜びました。
来週の◯月◯日◯曜日は、母親と出かける約束が入っていましたが、B子さんは母に経緯を話し、出かける予定をキャンセルします。
B子「お母さん、わたし、わたし、優秀賞に選ばれて出版だって!」
B母「えええええええっ!!! すごいじゃない! おめでとう! 本当にすごいわ!!!!」
B子「来週の◯月◯日◯曜日に説明を受けに行ってくることになったから、お母さんと出かける予定を……」
B母「いいわよいいわよ、チャンスじゃない! 行ってらっしゃいよ。お母さんとの約束なんて別の日でもぜんぜんかまわないわ!」
B子「お母さんありがとう! わたし、嬉しくて……だって、ちっちゃい頃からの夢が……(涙)」
B母「嬉しいわよね! お母さんも嬉しいわ! おめでとう。今夜は祝杯をあげなくちゃ! お父さ〜ん!」
(もう、このやりとり書いているだけで、悔しさと切なさと憤りとやるせなさが入り混じって心がギシギシザワザワします)
さて、いよいよ約束の日になりました。
B子さんはA社の説明会実施会場に向かいます。
「今日、わたしはまた、夢への大きな一歩を踏み出すんだわ」
そんな気持ちです。
会場に着くと、A氏がB子さんのことを待っていました。
(実際には電話をくれた人とはまた別の人が担当になる場合もあります)
A氏「B子さん、このたびはおめでとうございます。担当のAと申します。お目にかかれて光栄です」
B子「……は、はじめまして。B子です」
A氏「B子さんの応募くださった絵本ですが、本当に素敵でした。B子さんは素晴らしい才能の持ち主ですね!」
B子「あっ、ありがとうございます!」
A氏「今回のコンテストには1000作品ほどの応募がありました。その中のわずか1%である10作品の中に、B子さんの作品が選ばれたのです」
B子「きょ、恐縮です……」
A氏「こちらが、審査員からのコメントとなります」
B子「ありがとうございます!」
A氏「また、優秀賞に選ばれた作品は、出版をする権利がありますので、その方法を説明している用紙がこちらとなります」
こうして、A氏は、自社での出版方法を書いた書類を指差しながら、口頭で説明を始めました。
じつは、ここまでのやり取りでも、いくつもの「おかしいところ」があります。
気づきましたか?
もちろん、B子さんはこの時点で、まったく気づいていません。
・「B子さんの応募くださった絵本ですが、本当に素敵でした。B子さんは素晴らしい才能の持ち主ですね!」
→ 本当かもしれませんが、会場に来た全員に言っているセリフです。
・「1000作品ほどの応募があった」という言葉
→ まず、嘘です。
・審査員のコメント
→ 適当に作られたものだし、紙を渡すくらいなら郵便で送ればええやん! って気がしますね。
・「優秀賞に選ばれた作品は、出版をする権利があります」という言葉
→ ある意味、A氏はホントのことを言っています。しかし、「出版」という言葉の定義をよく思い出してください。この記事の上のほうで説明していますよ。
印刷その他の方法により、書籍・雑誌、並びにそのデジタルデータなどを製作して販売または頒布すること。「児童書を―する」「自費―」「―社」「電子―」
(出典:goo国語辞書の出版の定義)
そう、そうなんです。出版とは、複製して、不特定多数に頒布「する」こと。
無償で複製「してもらい」、不特定多数に頒布「してもらう」ことではありません。
そういう点でいうと、A氏はB子さんに「優秀賞に選ばれた作品は、出版をする権利があります」って言っていますが、そんなのあたりまえです。
だって、出版「する」権利は、誰でも持っている権利なのですから。
ようは、自分がリスクを背負って出版することなんて、やろうと思えば誰にでもできることなんです。お金と知識さえあれば。
この場合、A氏のセリフがもし、「優秀賞に選ばれたあなたの作品は、出版社で(無償で)出版してもらう権利があります」だとしたら、OKです。
しかし、A氏は「優秀賞に選ばれた作品は、出版をする権利があります」と言ってますから、その意味は、「お金を払えばウチの出版社名で出版してあげるよ〜」ということなのです。
その後、A氏は、ときおり意味不明の専門用語を使いながら、出版までのフロー、出版後のフローを説明し続けます。
その中で、たとえばこんなことを言ったりします。
・ウチで出すと、印税は30%です。1冊売れたら300円が著者に入るわけです。1万部売れただけで300万円入ります! 2万部売れたら600万円!
・発売後すぐに、全国の主要書店10店舗で「面陳」しますし、広告もバンバン打ちます。
・過去にたくさんの本をウチから出していて、『◯◯◯◯』という本なんて100万部売れています!(ドヤ)100万部売れたら、著者には印税が3億円入りますね!
すごいですねぇ。「んなわけねーだろ! ナメとんのかいっ!」と突っ込みたくなる人もいるかもしれません。
前段で説明した本が出版されるまでの仕組みとお金の流れがわかっていれば、「おかしい」ということにすぐ気付くはずです。
そのようにして、A氏はさんざん自社で出版することのいいところを並べ立て、B子さんのシンデレラストーリーを語り、その気にさせます。
そして、最後の方に、こう言うのです。
「初期費用は多少かかりますが、わずか300万程度です。B子さんの作品はとくに優秀なので、今週末の◯月◯日までにお支払いしたら200万円にお値引きいたします」
まさかそんな営業トークに騙されるとは思っていない人でも、ここまでの間に、才能を褒められ、シンデレラストーリーを語られ、桁違いの金額を聞かされていると、感覚が麻痺するものです。
「200万円? わたしが払うの?」
一瞬そう思ったとしても、「出版の世界は、そんなもんかも……」と納得し、契約書類にサインしてしまうのです。
仮にB子さんがA氏に「著者がお金を負担するものなのですか?」と聞いたら、間髪入れずにこう返ってきます。
「昔は違いましたけど、最近はけっこう実績のある著者でも、初期費用は負担するのが “普通” ですねぇ……」と。
(まったく“普通” じゃないです。前段の説明のとおり、多くの商業出版における初期費用は出版社が負担します)
ここまでの説明の間に、A氏は、「この出版が自費出版である」ということを明言していません。
明言していたら詐欺ではないのですが、意図して「明言せず」に、あたかも「商業出版(企画出版)」の話を装って進めるのです。
でも、考えてみてください。
そもそも、「リスクを負った人や組織が、見返りがあったときはその見返りを得る」というのが世の中の摂理です。
このA社のやり方は、明らかにその摂理に反しています。
リスクを背負う(お金を払う)のはB子さん。
見返りを得るのは……?
印税が30%で、よく言われる10%の3倍だから、見返りを得るのもB子さんですか?
もう一度、「印税の種類について」のところを読み返してください。
そして、A氏の説明したことが書いてある部分を読み返してみてください。
A氏は、「◯部売れたら◯万円!」とオイシイ部分だけ言い、A社の印税制度が「実売印税」であるということをちゃんと説明をせずにきていますね?
しかし、契約書類には、しっかり書いてあるのです。「実売印税となります」と。
その後、契約書にサインしたB子さんは、期日までに200万円を振り込んでしまいます。
そして、A社では、編集者とデザイナーが流れ作業的(おそらくそれほど時間や労力をかけず)に、B子さんの原稿を入稿データにして、印刷会社に入稿します。
その制作クオリティが通常の商業出版と比べものにならないくらい低いのは自明の理です。
また、同じく、営業担当者がB子さんの著作を、流れ作業的に営業します。
「全国の主要書店10店舗に面陳」という話もありましたが、全国の主要書店ではなく、B子さんのご自宅の周辺の10店舗だけだったりすることもあります。
「広告もバンバン打ちます」と言っていましたが、その広告とはB子さんの出版にかこつけた自社の自費出版の広告だったりします。
B子さんの本は1000部刷られたとしても、そのほとんどが倉庫に眠らせられるのです。
……こんなふうにして作って、流通させたものが、ミリオンセラーになるわけもありません。
200万円をお支払いして、絵と文を提供したB子さんは、それでも、自分の作品が生まれてはじめて書店に並んだことを喜びます。
お友だちにDMを送って出版をお知らせしたり、親戚中に本を買って贈ったりするのです。
しかし、これで、よかったのでしょうか……?
しかも……、悲劇はここで終わりではありません。
その後、さらなる悲劇がB子さんに襲いかかってくることになるのです。
この時点では、B子さんも、B母さんも、そんなことを知る由もありませんでした……。
■ 悲劇の追い討ちをかけるような顛末。塞がれる逃げ道……
その後、B子さんは、徐々に自分と、自分のデビュー作が置かれている現実に気づいていきました。
まず、自分の本は、思ったように……どころか、まったくと言っていいほど「売れない」こと。
なんとなく、ほかの本に比べて「クオリティが低い」ということ。
印税の方式にはいろいろあり、自分の本の印税形式が「実売印税」であったこと。
出版社が行う書店営業や販売促進の実態が、著者の立場からは「ほとんど見えない」ということ。
ミリオンセラーにはならなかった、などというレベルではありません。
たまに報告される月間販売部数は1桁であることがほとんど、2桁以上いくことはほとんどありません。
書店に並んだであろう期間も、ほんの一瞬だったように思えます。
最初に刷ったと思われる部数から実売数を引いた数はそこそこ大きいので、それらが倉庫に眠っていると考えられます。
「200万円の夢は。わりとあっけなかったなぁ……」
正直なところ、そう感じていました。
でも、一緒に大喜びしてくれた母や親戚、友人の手前、その事実を受け入れることも、公表することもできないでいました。
そんなある日、A社から書面にて連絡が入りました。
「そろそろ、発行から1年が経過します。現在の在庫は900部。ご契約書にあるように、著者さまの買い取り分となりますので期日までに以下の代金をお振り込みください」という通達です。
B子さんはその通達を二度見しました。
そしてすぐに契約書をファイルから出して見直しました。
たしかに、1年後に売れ残っている在庫を著者が8掛けにて購入するという旨の記述があります。
B子さんの本の定価の8割に在庫数をかけると、およそ100万円……。
かつて200万円をお支払いし、はかない夢を見て、今になってさらに100万円をお支払いする義務が生じているのです。
しかし、時すでに遅し。
初めて見る契約書の意味はさっぱりわからず、担当者の説明を聞いて理解したように思っていたのですが、ぜんぜん理解していなかったのです。
1年も経ってからでは、クーリングオフ制度もきっと利きません……。
B子さんはしばらく絶望感に打ちのめされ、それから「どうするか」ということについて考えました。
そして、インターネットを使って相談できるところを探すことにしたのです。
じきに、B子さんは「自費出版詐欺の被害に遭った人のための駆け込み寺」というような団体がいくつかあることを発見しました。
「ここに相談してみよう……」と、そのうちの1社(以下、J社)にコンタクトを取ります。
B子「恐れ入ります。お恥ずかしいことに、自費出版詐欺っぽいことに巻き込まれてしまいました……」
J社「具体的な経緯を教えてください」
(……中略……)
J社「なるほど……。それは、たいへんにお気の毒ですが、法的にはあなたサイドが完全に不利ですので、裁判沙汰にせず、勉強代として捉えましょう」
B子「!!!」
J社「これまでも同じようなご相談を受けたことがあり、そのようにアドバイスしたところ……」
B子「……」
J社「そのアドバイスを振り切って裁判を起こした人もいれば、あきらめた人もいました」
B子「………」
J社「残念ながら、裁判を起こしても、いいことがひとつもありません」
B子「…………」
J社「お金や時間がさらにかかり、負けるだけです」
B子「……………」
J社の担当者の説明はしばらく続き、B子さんは説得され、法的措置に踏み出すことはあきらめました。
そう、ただ枕を涙で濡らすことにしたのです。
200万円のはかない夢だと思っていたものは、本当は300万円の、はかなく悲しい夢だったのです。
また、一部の被害に遭われた方の話によると、なんとこのJ社の運営を担っているのは、A社の経営に携わっている人物だそうです。
つまり、悪質ともいえる経営手法を使いながら、万が一、顧客が訴訟を起こそうとしたときの対策を打っていたのです。
とにかく、問題にさせない。話が大きくなりそうな場合は、「そんなことをしてもムダ。我慢しましょう」と説き伏せる、という対策です。
(本当に被害に遭った方が善意で設立しているケースもあります)
その後、B子さんは、二度と自分の本を出したいと思うことはなくなりました。
300万円の支払いどころか、小さい頃からの夢をも手離し、希望も失ったのです。
こうして失ったものは金額では測れませんが、測れないほどとてつもない被害だったことは言うまでもありません……。
■ 自費出版詐欺トラブルに巻き込まれない一番の方法は、とにかく「正しい知識」を持つこと
これまでの内容は、わかりやすいように&個人情報保護のルールに触れないよう、多少の演出をしています。
しかしながら、すべて、出版業界の知識を持った上で、実際に被害に遭われた方の体験談を基に記しました。
今でもまだまだ、このような被害に遭いそうな段階にいる方、実際に遭ってしまった方の話をよく聞きます。
遭いそうな段階であれば、直接的にコンタクトすることで最悪の事態は免れることができるかもしれませんが、コトがすべて進んでしまってからは、できることはごくわずかとなります。
本当に残念ですし、わたしとしては、憤りを隠せません。
ビジネスをうまく回転させていくためにいろいろな努力をすることは企業としては当然のことです。
しかし、その対象(悪い言葉を使うと「カモ」です)を個人の「善良な夢追い人」に設定し、事実を隠しながらコミュニケーションを取っていく。
挙げ句の果てに夢をもぎりとり、自分の果実とする。
これほど悪質なことはありません。
ビジネス以前に「人間としての真偽」を問いたくなります。
このようなことに遭わないために、悪質な手法を用いている企業がなくなることを願っています。
ただ、すぐになくすことが現実的ではない以上、被害者になり得るすべての人が、最低限の正しい知識を持つことがもっとも早く、確実です。
「知っていれば、こんなことにならなかったのに……」と後になって悔やむのではなく、あらかじめ知識をつけておくこと。
それにより、ひとりでも多くの人が悲しい想いをせず、健全な心で夢を追い続けて欲しいと思うのです。
本を書くこと、出版することは、本当はとても楽しいことです。
何よりも、届けたい人にちゃんと届き、その人から声が返ってきたときには、それこそ、涙が出るほど嬉しい。
悔しい涙、悲しい涙ではなく、嬉しくて幸せな涙を流してほしい。
そんな涙を流せるように、どうか、事実を知り、それを大切な友達にも教えてあげてください。
「B子さん」のような方がこれ以上、増えないことを心から祈っています。
■ 出版するって特別なことじゃない! 自分でやるという選択肢を忘れないで。そしてそれは最高に楽しいこと
出版する権利は誰にだってあるのです。特別なことじゃありません。
出版社を作ることだって、法人格だけに許された権利ではありません。個人でもできます。
一般的に知られていないだけなのです。
B子さんが支払った300万円という多額の「悔しいお金」について、わたしはこう感じます。
同じ使うなら、まだ、良質で発行物の品質が高い出版社に「◯◯部を買い取ります」というアドバンテージ付きで交渉を持ちかけたほうがずっといい。
さらに、同じ使うなら、まだ、自分で作品を描き、編集やデザインをし、自分で出版社をつくって、自分で発行し、自分で販促活動をしたほうがずっといいです。
ちゃんと努力することによって、もっと安いお金でスキルやノウハウを得て、本を制作し、売ることだってできます。
うまくやれば、それを全部やっても、けっこうなお釣りがきます。
全部自分でやるなんて、最初は難しそうに思えるかもしれませんが、本気だったら楽しみながら努力できます。
また、2作目、3作目になれば1作目より慣れたものになり、それほど難しいと感じなくなります。
自分でやっているのですからどんどんクオリティも上がりますし、知識も増えていきます。
売れれば見返りもありますし、そうやって増やしていった技術や知識は「一生涯の財産」となります。
被害に遭うリスクを背負ってまで「コンクールやコンテストで優勝するという少ない可能性に懸けること」を否定するわけではありません。
しかし、B子さんのような結末を迎えるくらいなら、もっと安全な方法で、あるいは自分や仲間同士でやってしまったらいいじゃないですか。
万が一、これを読んでくれているあなたが、
「出版は、ちゃんとした会社が行うことなんだ」
「制作に関わっている人はプロ中のプロであり、自分とは違う、雲の上の人なんだ」
などと思い込んでいるのであれば、その思い込みは今すぐ捨ててください。
知識と技術と少しのお金があれば、出版社は、個人でも作れます。
また、すでに出版社で仕事として本作りをしている人の全員が全員、超プロフェッショナルなわけではありません。
そして、中には、営利のために善良な夢追い人を傷つける組織や人がいることを忘れないでください。
悲しいけれど、それが現実です。
そして、その現実によって引き起こされる悲劇は、技術と知識をつけ、騙されないようにすることで逃れられるものなのです。
最後に……。
あなたの人生は、あなたにとって「その他大勢の人生」と同じではありません。
たった一度の、たったひとつの、大切な人生です。
最後には自分しか守れない自分の人生。
そのかけがえのない人生を、もっと大切にしてください。
あなたの人生が「特別じゃない」なんてことは絶対にないのですから。
***
最後までお読みくださってありがとうございました。
また、通常なら内密にしている授業の資料より一部を抜粋して本記事を作成・公開することを快く承諾してくれたWCC「絵本の学校」の生徒たちに、心からの感謝と敬意を表します。