編集者が本音で語る『採用される企画書』の秘密

毎月何百通もの企画書が出版社に届きますが、実際に出版にこぎつけるのはわずか1-2%程度。99%の企画書が没になる厳しい現実の中で、なぜある企画書は採用され、なぜある企画書は即座に却下されるのでしょうか?

今回は、大手出版社の編集者たちが普段は絶対に口外しない「採用される企画書の秘密」を、実際の編集会議での議論や判断基準とともに詳しく解説します。

編集者が企画書を見る「最初の3秒」で決まること

多くの作家志望者が知らない事実があります。それは、編集者が企画書を本格的に検討するかどうかは、最初の3秒で決まるということです。

編集者の視線の動き

編集者が企画書を手に取ったとき、最初に見るのは以下の順番です:

  • タイトル(1秒)
  • キャラクターの絵(1秒)
  • あらすじの最初の1行(1秒)

この3秒で「読み進める価値がある」と判断されなければ、その企画書は「検討済み」の山に積まれてしまいます。

即座に却下される企画書の特徴

編集者たちが口を揃えて言うのは、以下のような企画書は3秒で却下されるということです:

  • タイトルが長すぎる(15文字以上)
  • キャラクターに個性が感じられない
  • あらすじが「ある日〜」で始まる
  • 手書きで汚い字(デジタル時代でも意外に多い)
  • 用紙がしわくちゃ、または汚れている
逆に、最初の3秒をクリアする企画書の特徴は:
・一目で覚えられるシンプルで印象的なタイトル
・一瞬で「何者か」が分かるキャラクターデザイン
・冒頭から引き込まれる物語の導入
・清潔で見やすいレイアウト


編集会議の現実:企画書はこうして裁かれる

出版社の編集会議がどのように行われているかを知ることで、採用される企画書の条件が見えてきます。

会議の流れと参加者の視点

典型的な編集会議では、一人の編集者が持ち時間3-5分で企画を説明します。参加者は編集長、営業部長、宣伝部長など10名程度。彼らは以下の観点から企画を評価します:

編集長の視点

「これは本当に面白いか?」

営業部長の視点

「書店で売れるか?」

宣伝部長の視点

「話題になるか?」

製作部長の視点

「コストは適正か?」

企画書プレゼンの成功パターン

会議でウケる企画書には共通のパターンがあります:

  • 一言で説明できる: 「○○版の△△」のように、既存の成功例と組み合わせて説明できる
  • 数字で裏付けがある: 類似作品の売上データや市場調査結果を含む
  • ビジュアルインパクトがある: 会議室の全員が一目で「何の話か」分かる絵がある
  • 話題性がある: SNSで拡散されそうな要素がある

即座に没になる発言パターン

編集会議で以下のような発言が出ると、その企画は即座に没になります:

「似たような本、去年も出しませんでした?」
「ターゲットが曖昧すぎませんか?」
「制作費の割に売上見込みが…」
「書店の○○さんは難しい顔をしそうですね」

編集者が絶対に採用したくなる企画書の「型」

成功する企画書には、実は決まった「型」があります。これは業界の暗黙知として編集者間で共有されていますが、外部に語られることはほとんどありません。

黄金の構成パターン

1ページ目: インパクト重視

  • キャッチーなタイトル(大きく、太字で)
  • メインキャラクターの魅力的な絵
  • 一行で物語の核心を表すキャッチコピー
  • ターゲット層と予想部数

2ページ目: 物語の詳細

  • あらすじ(400字程度)
  • 主要キャラクター紹介
  • 見開き構成案(16見開き分の簡潔な説明)
  • 類似作品との差別化ポイント

3ページ目: マーケティング視点

  • ターゲット読者の具体的なペルソナ
  • 競合作品の分析
  • 話題化の仕掛け案
  • 展開可能性(シリーズ化、グッズ化など)

4ページ目: 実績とサンプル

  • 作者のプロフィールと実績
  • 実際の見開きサンプル(2-3見開き)
  • 制作スケジュール案

編集者が食いつく「魔法の言葉」

企画書に以下の表現があると、編集者の注意を強く引きます:

「初の○○をテーマにした絵本」
「SNSで話題の○○を絵本化」
「○○賞受賞作家による新作」
「累計○万部シリーズの新展開」
「海外でも注目されている○○」

編集者が密かに重視する「数字」の話

編集者は感性だけで判断しているわけではありません。実は様々な数字を基に、非常に冷静な判断を下しています。

市場分析の重要指標

1. 類似作品の売上データ

同じようなテーマ、同じようなターゲットの絵本が過去3年間でどれくらい売れたかを必ず調べます。売上が右肩下がりのジャンルには手を出しません。

2. 作家の知名度指標

GoogleやSNSでの検索量、フォロワー数、過去作品の売上など、作家の「数値化できる人気度」を必ずチェックします。

3. 季節要因

クリスマス、入学シーズン、夏休みなど、絵本が売れやすい時期に合わせて出版できるかどうかも重要な判断材料です。

4. 制作コストと利益率

イラストの複雑さ、特殊印刷の必要性、ページ数などから制作コストを算出し、予想売上との比較で利益率を計算します。

編集者を説得する数字の使い方

企画書に数字を載せる際は、以下のポイントを意識しましょう:

  • 売上データは必ず出典を明記する
  • 楽観的すぎる予測は逆効果
  • 競合他社のデータも含めて客観性を保つ
  • 最悪の場合のシナリオも想定しておく

「企画会議あるある」:編集者たちの本音

編集者たちが酒の席で語る「企画会議あるある」には、採用される企画書のヒントが隠されています。

よくある却下理由ランキング

1位: 「作者の自己満足が透けて見える」

作者が描きたいものと、読者が読みたいもののズレが大きすぎる企画。特に「子どもの頃の思い出」を美化しすぎた企画に多い。

2位: 「既視感が強すぎる」

「どこかで見たことがある」感じの企画。オリジナリティの欠如は致命的。

3位: 「ターゲットが曖昧」

「3歳から大人まで楽しめる」といった、万人受けを狙いすぎて焦点がぼやけた企画。

4位: 「商業性が見えない」

芸術性は高いが、本として売れる要素が見当たらない企画。

5位: 「作者との連絡が困難そう」

企画書の段階で連絡が取りにくい、レスポンスが悪い作者の企画。

逆に採用されやすい企画の特徴

話題性がある、シリーズ展開が可能、海外展開の可能性、作者の人柄が良い、タイミングが良いといった要素が重要です。


編集者との関係構築:企画書提出前にすべきこと

実は、企画書を提出する前の段階で勝負の大半は決まっています。

効果的なアプローチ方法

1. 編集者の好みを研究する

その編集者が手がけた過去の作品を調べ、どのような傾向があるかを分析します。編集者にも得意分野や個人的な好みがあります。

2. 業界イベントでの自然な出会い

絵本のイベントや展示会で編集者と自然に出会い、まずは人間関係を築きます。この時点では売り込みはせず、純粋に絵本について語り合います。

3. 小さな仕事から始める

いきなり絵本の企画を持ち込むのではなく、雑誌の挿絵や小さなイラストの仕事から関係を始めます。

4. SNSでの適度な交流

編集者のSNS投稿に適度に反応し、存在を認知してもらいます。ただし、しつこすぎるのは逆効果。

編集者が警戒する作家の行動:
・しつこすぎる連絡
・他社の悪口
・完璧主義すぎる姿勢
・商業性を無視した上から目線の発言

最終的に採用を決める「編集者の直感」

数字やロジックで分析しても、最終的に企画書の採用を決めるのは編集者の直感です。

編集者が重視する感覚的要素

  • 「この作者と一緒に仕事したい」と思えるか: 技術や才能以上に、人間的な魅力や信頼関係が重要
  • 「自分が子どもだったら読みたいか」: 大人の視点ではなく、子どもの心に戻った時の純粋な感想
  • 「この本を友人に薦められるか」: 身内に薦められないような作品は、読者にも薦められない
  • 「10年後も愛されるか」: 一時的な流行ではなく、長期的な価値があるか

直感を磨く編集者たち

ベテラン編集者たちは、長年の経験により「売れる本の匂い」を嗅ぎ分ける能力を身につけています。この直感は、膨大な読書経験と市場分析の蓄積から生まれるものです。

編集者の心を動かす企画書とは

編集者たちが本音で語る「採用される企画書」の秘密をまとめると、以下の要素が重要であることが分かります:

  • 感情に訴える力: 数字やロジック以上に、編集者の心を動かす何かがある
  • 商業的な現実性: 美しい理想だけでなく、売れる仕組みが見える
  • 作者との関係性: 企画書そのものより、作者との信頼関係が決め手になることが多い
  • 時代性と普遍性: 今の時代に必要でありながら、長期的な価値もある
  • 独自性と親しみやすさ: 他にはない新しさがありながら、読者にとって身近である

作品への愛情こそが最強の武器

最も重要なのは、編集者も一人の人間であるということです。彼らは毎日大量の企画書に目を通しながら、「本当に面白い作品」「多くの人に愛される作品」を探し続けています。

あなたの企画書が編集者の心を動かし、多くの読者に愛される絵本として世に出ることを願っています。技術と戦略、そして何より作品への愛情を込めて、挑戦し続けてください

おしまい

POSTED BY : wcc_master