絵本作家が絶対に教えない「売れる絵本」の意外な法則
絵本作家が絶対に教えない「売れる絵本」の意外な法則
書店で長年愛され続ける絵本と、すぐに忘れ去られる絵本の決定的な違い
実は、多くの人が思い込んでいる「良い絵本の条件」と、実際に子どもたちに愛される絵本には、驚くほど大きなギャップがあります。絵本業界で20年以上働く編集者や、ベストセラー作家たちが密かに知っている「売れる絵本の法則」を、今回特別に公開します。
美しい絵が最優先?実は違います
「絵本だから絵が美しくなければ」そう考える人は多いでしょう。美術大学出身者や、イラストレーターとして活動している人ほど、この思い込みに縛られがちです。
しかし、世界中で愛され続けている名作絵本を分析すると、意外な事実が見えてきます。
名作絵本の意外な共通点
『はらぺこあおむし』の絵は決して写実的ではありません。エリック・カールの独特なコラージュ技法は、美術的には「荒い」とさえ言えるでしょう。『ぐりとぐら』の絵も、現代のデジタルイラストレーションと比べれば素朴そのものです。『スイミー』のレオ・レオニの絵に至っては、子どもでも描けそうなシンプルさです。
にも関わらず、なぜこれらの作品は何十年も愛され続け、累計発行部数では現代の美麗なイラスト絵本を圧倒しているのでしょうか?
絵の本当の役割とは
答えは「絵の役割」にあります。絵本における絵の最大の役割は「美しさ」ではなく「物語を助けること」なのです。具体的には以下の3つの機能が重要です:
- 情報伝達機能: 文字では表現しきれない情報を絵で補完する
- 感情増幅機能: 物語の感情的なインパクトを視覚的に強化する
- 記憶定着機能: 物語を読者の記憶に深く刻み込む
子ども目線の落とし穴
「子どもに分かりやすく」という意識が、実は最大の落とし穴になることがあります。
子どもたちの本当の世界
多くの大人は子どもを「理解力が低い存在」として捉えがちです。そのため、複雑な設定は避け、善悪をはっきりさせ、結末は必ずハッピーエンドにしようとします。しかし実際の子どもたちは、大人が思っている以上に複雑で深い世界を持っています。
- 優しいはずのお母さんが怒ることもある
- 怖いと思っていた犬が実は人懐っこかったりする
- 単純な善悪論よりも、矛盾や曖昧さを含んだ物語に強く惹かれる
- 「答え」ではなく「考えるきっかけ」を求めている
成功例から学ぶ複雑さの魅力
例えば『モンスターズ・インク』が世界中の子どもたちに愛されるのは、「怖いモンスター」と「優しいモンスター」という二面性を描いているからです。『となりのトトロ』も、現実と非現実の境界が曖昧で、大人には理解しきれない不思議な世界を描いています。
説教的な作品が敬遠される理由
一方、大人の都合で作られた「分かりやすい物語」は、実は子どもたちには退屈なものです。「いじめはいけません」「友達は大切です」といった直接的なメッセージを込めた絵本が書店に並んでいますが、これらが長期的な人気を得ることは稀です。
「読み聞かせ映え」という思い込み
「絵本は読み聞かせで使われるもの」この固定観念も、創作の幅を狭めています。
個人的な発見の喜び
確かに読み聞かせは絵本の重要な使われ方の一つです。そのため多くの作家は、「声に出して読みやすい文章」「遠くからでも見える大きな絵」「みんなで楽しめる分かりやすい展開」を意識します。これ自体は間違いではありません。
しかし、子どもたちは一人で絵本を眺める時間も同じくらい大切にしています。一人の時間に、絵の細部を発見し、文字を追い、想像力を膨らませる。ページの隅に隠された小さなキャラクターを見つけたり、前のページとの細かな違いに気づいたり。そんな「個人的な対話」ができる絵本こそ、真に愛される作品になるのです。
成功事例:発見型絵本の威力
『ミッケ!』シリーズや『ウォーリーをさがせ!』が大ヒットしたのは、まさにこの「個人的な発見の喜び」を提供しているからです。これらの本は読み聞かせには向きませんが、子どもたちは夢中になって一人で楽しみます。
二重構造の重要性
最も成功している絵本は、読み聞かせでも楽しめるし、一人読みでも新しい発見がある「二重構造」を持っています。表面的には単純だが、深く読み込むと複層的な意味が見えてくる。そんな作品作りを心がけることが重要です。
データが教える意外な事実
絵本の売上データを分析すると、一般的な常識とは異なる興味深い傾向が見えてきます。
売上データが明かす4つの法則
法則1:季節に関係ない作品が強い
クリスマスやハロウィン、節分などの季節イベントを題材にした絵本は、その時期には確かに売れます。しかし長期的に見ると、季節に関係なく一年中読める作品の方が圧倒的に強いのです。『ノンタン』シリーズや『こぐまちゃん』シリーズが長年愛され続けているのは、いつ読んでも楽しめるからです。
法則2:シリーズ化しにくい作品が記憶に残る
出版社はシリーズ化できる作品を好みます。人気キャラクターが確立されれば、続編を出すたびに安定した売上が期待できるからです。しかし読者の記憶に最も深く刻まれるのは、一冊で完結する強烈な物語です。『100万回生きたねこ』『スーホの白い馬』『かわいそうなぞう』など、シリーズ化されていない作品の方が、大人になっても強く印象に残っています。
法則3:大人が泣ける絵本は子どもにも響く
「子ども向け」だからといって感情の深さを制限する必要はありません。大人の心も動かす作品は、子どもの感情も深く揺さぶります。『ずーっと ずっと だいすきだよ』『わすれられないおくりもの』など、生と死を扱った重いテーマの絵本が長年愛されているのは、年齢を超えた普遍的な感情に触れているからです。
法則4:文字数と人気は反比例する
意外なことに、文字数が少ない絵本の方が長期的な人気を保つ傾向があります。『いないいないばあ』『だるまさんが』など、極めてシンプルな絵本が何世代にもわたって愛されています。多くの情報を詰め込もうとするよりも、一つのシンプルな喜びを深く追求した方が効果的なのです。
編集者が語らない「ボツになる作品」の共通点
大手出版社で絵本の編集を担当している複数の編集者に取材したところ、ボツになりやすい作品には明確な共通点があることが分かりました。
編集者が避ける4つのパターン
1. メッセージが先行している作品
「環境問題の大切さを教えたい」「いじめの悪さを伝えたい」「友情の素晴らしさを描きたい」といった明確な教育的目的を持った作品は、実はボツになりやすいのです。なぜなら、メッセージが先行すると、物語が不自然になり、キャラクターが説教くさくなってしまうからです。
2. 大人の懐かしさに依存した作品
「自分の子ども時代はこんなに素晴らしかった」という懐古的な視点で書かれた作品も危険です。現代の子どもたちは、作者が子どもだった時代とは全く違う環境で育っています。昭和の子ども時代への憧れを描いた作品は、大人には受けるかもしれませんが、肝心の子どもたちには響きません。
3. 流行を追いすぎた作品
今話題のキャラクターや社会現象を安易に取り入れた作品も短命に終わります。流行は必ず廃れるからです。また、流行を追うことで作品の独自性が失われ、似たような作品の中に埋もれてしまいます。
4. 技術的完璧さを重視しすぎた作品
プロのイラストレーターが描いた美麗な絵本でも、「技術的には完璧だが心に響かない」という理由でボツになることがあります。編集者たちが最も重視するのは技術ではなく「作者の想いが伝わってくるか」という点です。
逆に採用されやすいのは「作者自身が心から楽しんで作った作品」です。技術的な完成度よりも、作者の「作りたい」という純粋な気持ちが伝わる作品が、結果的に読者の心も動かすのです。
絵本業界の「暗黙のルール」
絵本業界には、表立って語られることのない暗黙のルールがいくつもあります。これらを知っているかどうかで、作品が世に出る可能性は大きく変わります。
知られざる制約と現実
32ページの呪縛
多くの絵本が32ページなのは、実は印刷コストの都合です。印刷業界では16ページ単位で製本することが効率的で、32ページ(16ページ×2)が最もコストパフォーマンスが良いのです。しかし本当に必要なページ数は作品によって異なります。物語によっては16ページで十分な場合もあれば、48ページ必要な場合もあります。
対象年齢の曖昧さ
絵本には「3歳から」「5歳から」という対象年齢の表記がありますが、実際には年齢を超えて愛される作品が名作となります。『はらぺこあおむし』は0歳児から大人まで楽しめますし、『100万回生きたねこ』は大人が読んでも深く感動します。対象年齢にとらわれすぎると、かえって作品の魅力を狭めてしまう可能性があります。
版元の力関係
残念ながら、どの出版社から出版されるかで、書店での扱いは大きく変わります。大手出版社の新刊は平積みで展示され、小さな出版社の本は背表紙だけで陳列されることが多いのです。しかし近年は、SNSの普及により小さな出版社の作品でも注目される機会が増えています。作品の質が高ければ、口コミで広がっていく時代になったのです。
本当に必要なのは「ずらし」の技術
売れる絵本に共通するのは「ずらし」の技術です。読者の予想を良い意味で裏切る展開、常識を少しだけ疑わせる視点、当たり前と思っていたことを別の角度から見せる技術。
成功作品に見る「ずらし」のテクニック
これは奇をてらうこととは違います。日常の中にある小さな発見や、見過ごしがちな美しさに光を当てること。そんな繊細な「ずらし」が、読者の心に新しい扉を開くのです。
例1:『11ぴきのねこ』の不完全なキャラクター
『11ぴきのねこ』シリーズは、主人公のねこたちが必ずしも善良ではありません。わがままで、時には約束を破ったりもします。しかしそんな不完全さが、かえってキャラクターを魅力的にしています。
例2:『バムとケロ』の自由な世界観
『バムとケロ』シリーズも、大人の視点では「散らかしすぎ」「だらしない」と思えるような生活を描いていますが、子どもたちには自由で楽しい世界として映ります。
こうした「ずらし」は、作者の独自の視点から生まれます。世の中の常識や既存の価値観に疑問を持ち、自分なりの解釈を加えることで、新しい物語が生まれるのです。
時代を超える絵本の条件
最後に、時代を超えて愛され続ける絵本の条件を整理してみましょう。
名作が持つ5つの要素
- 普遍的なテーマ: 愛、友情、成長、別れ、発見など、いつの時代も変わらない人間の根本的な体験を扱っている
- シンプルな構造: 複雑すぎない物語構造で、子どもでも理解できるが、大人が読んでも新しい発見がある
- 独自の世界観: 他にはない独特な設定やキャラクター、絵のスタイルを持っている
- 感情の深さ: 表面的な楽しさだけでなく、読者の感情に深く訴えかける要素がある
- 読み返したくなる要素: 一度読んだだけでは気づかない細かい仕掛けや発見がある
これらの条件を満たした作品は、出版から何十年たっても書店に並び続け、新しい世代の読者を獲得し続けています。
創作の本質
絵本作りにおいて最も大切なのは、技術でも戦略でもありません。それは「自分が本当に作りたいものを作る」という、シンプルだけれど最も難しいことなのかもしれません。
純粋な想いの力
市場のニーズや読者の反応を意識することは大切です。しかし、それ以上に大切なのは、作者自身が心から愛せる作品を作ることです。その純粋な想いこそが、時代を超えて愛される絵本の原動力なのです。
読者は敏感です。作者が心から楽しんで作った作品と、売れることだけを考えて作った作品の違いを、確実に感じ取ります。だからこそ、まずは自分が本当に作りたい物語を見つけることから始めましょう。
あなたの物語を待っている人がいる
そしてその物語を、できるだけ多くの人に届ける技術を身につけていく。そのバランスこそが、成功する絵本作家への道なのです。
今日あなたが心に描いている物語が、いつか誰かの人生に寄り添う一冊になるかもしれません。その可能性を信じて、一歩ずつ前に進んでいきましょう。